第77回宗議会(常会)
- 真宗興法議員団 真宗大谷派
- 8月1日
- 読了時間: 38分

第77回宗議会(常会)開会式での門首挨拶
本日ここに、第77回宗議会常会が招集され、議員各位には、挙って参集されましたこと、まことにご苦労様です。
はじめに、昨今、世界各地で頻発する自然災害、そして、今なお終息を見ることのない国家間での武力紛争により、多くの人の命や生活が脅かされていることに深い悲しみを覚えるとともに、被害を受けられた全ての方々に衷心よりお見舞いを申し上げ、一日も早く平穏な日常が取り戻されることを強く念じ上げます。
さて、宗門では、現在、各教区・各別院において、順次慶讃法要がお勤まりになっております。
このような時代であるからこそ、あらためて宗祖が顕かにされた本願念仏のみ教えを我が身に問いたずね、共に念仏申す歩みを確かめる機縁となることを念願する次第であります。
今常会は、かかる時代状況の中で、宗門の未来を見定めるべく、様々な重要施策について審議されることであります。
議員各位におかれては、公議公論を尽くされ、その本分を全うされるよう念願します。
(2025年5月29日)

2025年 宗会(常会)宗務総長演説(要旨)
2025年5月29日
「改革」の時機を共に - 慙愧心を賜りて
ご参会、誠にご苦労様でございます。今常会の開会にあたり、私ども内局の基本姿勢及び重要宗務の方針について申し上げます。どうぞ宜しくお願いいたします。
1.はじめに
はじめに、昨年の元日に発災した「能登半島地震」以来、今なお非常に厳しい環境の中におられます皆様に、衷心よりお見舞いを申し上げます。
宗門として、息の長い支援を継続し、一日も早く、穏やかな日常を取り戻せますよう、力を尽くします。
2.宗門における「改革」の本義
【 現代と宗教 】
さて、大規模災害と悲惨な事件が続く現代社会。我々はその大きな渦の中で、加速度的に他者との関係性を喪失し、国も地域も、また世代間においても、「自分さえよければ」という感覚が刻一刻と強まっております。
今年は、日本にとって戦後80年でありますが、世界ではウクライナとロシアの戦争、イスラエルにおける武力衝突等が今なお続いております。
また、国内における様々な出来事を見ましても、その根本は、真宗仏教が教えるところの「我執・我愛の欲望拡大」に歯止めがかからない、非常に危険な状態であり、正に如来に悲しまれている「人間のすがた」が露わになっておるものと感じます。
「今だけ・金だけ・自分だけ」。法話等の折によく聞かれる言葉ですが、この言葉自体、私が耳にして既に10年以上が経ちます。ということは、「そうあってはいけない」と知りつつも、その生き方を手放すことができない。誰もがそのような生き方では幸せは来ないと、心の底では思っている。けれども現実はそのようにしか生きられない。どれほど科学技術が進歩してもその点は変わりありません。
ここに、本願の名号が変わらずに今日まで至り届いている理由があります。正しく人知、人間の理知分別の限界が知らされるということです。
道理から申しますと、人間はその字の通り「間がら(関係性)を生きる」ものでありますから、宗教の根幹である「救済」、「救われる」ということも、「間柄が救われる」ということでなければ、宗教も救済も成り立ちません。それが道理であり、実際、本心では誰もが豊かな関係、潤いのある生活ということを望んでいる。しかもその希望は常
に、例え細い糸のようであっても続いている。けれども現実生活は、他と衝突し続ける。一人ひとりが実は一番大事な、最も身近な人をこそ傷つけてしまう。これがあらゆる人が抱えている、歴史的・社会的、人間の根本問題。我々の人生における最大の苦悩ではないかと思います。
以前から、また昨今でも、「寺離れ」「宗教離れ」という言葉が聞かれますが、離れているのは一体何が離れているのでしょうか。それは、その時々の気分で転変する「人の関心」だと思います。もっと言えば、人間の分別のモノサシにおいて、離れているに過ぎないのだと思います。時代としては、むしろ現代社会の実態である「苦悩」そのものが、実は宗教を求めている。「真実の道標」なるものを、強く願い求めている証拠であると、私は受け止めております。
【 人と法 】
さて、こうした厳しい現実の中にあって、我が宗門に求められておりますことは、申すまでもなく「宗教の真実性の発揮」であります。それを先人方が「同朋会運動」ということで表現してくださり、今日まで受け継いでまいりました。ここに「人のまこと」がある。「真宗再興」の道、人が人となる道標がここにあると。その証しは何か。証しは南無阿弥陀仏の声〈みな〉である。その声〈みな〉を今現に聴いている者は誰でしょうか。我々一人ひとりであります。
つまり「宗教の真実性」とは、どこかの誰かがいつか証明する、ということでは決してなく、我々一人ひとりのところ、自身の日常のところで証しされるものであり、その他に証明の仕様がないのであります。
その意味で、真宗仏教が大事に伝えてきた教語に「人と仏法は不二である」、互いに離れないという言葉があります。これは言い換えれば、大乗至極の仏道、浄土真宗とは、人の姿に顕れるということでしょう。教えは教理だけ、文字だけでは我らの現実とはならない。必ずそこに「ひと」として現れる。そして教えが伝わるということも、教理、論理によって伝わるのではなく、その教えに生きる人、その姿によって伝わってきたという事実がございます。念仏の説明が伝わるのではなく、「念仏そのもの」が伝わるのであります。
宗祖親鸞聖人は、『教行信証』の後序に「然るに、愚禿釈の鸞、建仁辛の酉の暦、雑行を棄てて本願に帰す」と、宗祖の「廃立」を銘記されています。これは言わば宗祖の決意、それも頭で考えたような決心ではなく、法然上人、そのよきひとの申した念仏との値遇によって、初めて賜ることのできた「真実の道標」の表現でありましょう。この時、宗祖は、法然上人の何に感動されたのでしょうか。その卓越した知識でしょうか。才覚でしょうか。決してそうではなく、宗祖は法然上人の生き様、お姿、「その存在」に感動して本願に帰されたに違いない。すなわち仏法は文字だけでは成立しない、伝承
されないのであります。仏法に生きる人、その人の姿によって証しされ、今日まで伝承されてきたということであります。
【 改革の基礎・質的転換 】
さて、現今の宗門の最重要課題は、申すまでもなく「宗務改革」、「行財政改革」の推進であります。「改革」とは、これまでのやり方を適切に改め、より良い形に転ずることであります。そして事を改める、転ずるという時には、そこに必ず基礎・基軸が要る。礎となるもの、軸となるものが必要であることは言うまでもありません。では、宗門の改革に際し、我々は今、何に基礎を求めるのか。どこに基軸を見出すのか。ここが今、喫緊の問題であります。
この点について私自身、各位と同じく今日まで考察を重ねてまいりました。そして先日、一つの言葉に目が止まりました。それは今からちょうど50年前の本山議会における嶺藤宗務総長の演説であります。機関誌『真宗』での題名は「教団の質的転換」となっております。
嶺藤総長はその演説において、曰く「まず克服されねばならぬものは、いたずらな教権主義と、私的感情のみに拠った誤った経営主義であります。宗門が教法によって統理された教団として、すなわち教法を聞思し、かつ実践する組織体として、その質的転換を達成する方策が、基本的目標として定立されねばならない」と。
私はここに、現在我々が直面しております「改革」の基礎・基軸がある。どうしても外してはならない、それを外しては宗門の改革は成り立たない一点が教示されていると思います。それは「教法を聞思し、かつ実践する」という真宗人としての使命感・責任感に裏打ちされた、宗門人の「反応の大事」が表現されています。
【 我らの宿題 】
「教団の質的転換」を期し「教法を聞思し実践する」。この言葉の背景について申しますと、かかる表明がなされたのは1975年の時点です。つまり「宗憲改正」より前であります。宗門はここから、「分裂報恩講」「即決和解」を潜って「宗憲改正」という重大事を成し遂げました。ということは、嶺藤総長がここに掲げた主旨は、「宗憲改正」における直接目標の一つであるわけです。そういう意味で、「教団の質的転換」を期し「教法を聞思し実践する」ことが、先人から我々に託された「宿題」である。そのように私は受け止めます。
では具体的に、現宗憲のどこにその「宿題」が表記されているのか。それは、前文にあります。曰く「宗祖親鸞聖人は、顕浄土真実教行証文類を撰述して、真実の教たる佛説無量寿経により、阿弥陀如来の本願名号を行信する願生浄土の道が、人類平等の救いを全うする普遍の大道であることを開顕された。(中略)爾来、宗門は長い歴史を通して幾多の変遷を重ねるうちには、その本義が見失われる危機を経てきたが、わが宗門の至純なる伝統は、教法の象徴たる宗祖聖人の真影を帰依処として教法を聞信し、教法に
生きる同朋の力によって保持されてきたのである」と。この一文に、「宿題」の趣意が込められております。私自身、以前はここをそこまで読み取れておりませんでしたけれども、宗門の現状とその背景を想う中で、実はこの「前文」の一文こそ、我々に託されている「宿題」であったと。そのように私は受け止め直しました。
宗祖が普遍の大道であることを開顕してくださったのは、「誰のため」なのかという問題です。一体誰のために宗祖は『教行信証』を書き遺してくださったのか。誰のために「帰命無量寿如来」の声を遺してくださったのでありましょうか。
他でもない、この私のためであります。私のためなのです。ですから本日敢えて申し上げますなら、議員各位をはじめ、現に宗門に縁ある一人ひとりのために、宗祖は願生浄土の道を開顕してくださったわけです。その意味で、我々は「わたくし、ひとり」というところにおいて、既にして「道」が与えられているのであります。
つまり、宗門における「改革」とは、「一人ひとり」の改革でなければならない。我々一人ひとりの改革が、すなわち宗門の改革である。自分が教法によって転ぜられる、ひっくり返されるということなしに、法制度や組織機構をどれだけ変えたところでどうにもならない。先ほど申した「今だけ・金だけ・自分だけ」に留まるだけであります。それでは本質的な意味で改革にはならない。一人ひとりが教法によって改革される、転ずるということなくして、宗門における改革は成立しようがない。そのようなことを、私はこの嶺藤総長の言葉から改めて教えられます。
宗祖は、『教行信証』の総序において、「円融至徳の嘉号は悪を転じて徳を成す正智、難信金剛の信楽は疑を除き証を獲しむる真理なり」と銘記されています。これは「南無阿弥陀仏が真実である」ということです。南無阿弥陀仏こそ真実である。他に真なるものがあるのではない。また他を探し回るようなことでもない。どこまでも南無阿弥陀仏が真実であると。この一点を、私は宗門の大きな転換期にあって、必ず押さえ直す必要があると、強く感じます。
「悪を転じて徳を成す」。「転悪成徳」。これこそが「改革」でありましょう。南無阿弥陀仏による「意識改革」、「認識の変革」です。ですから「教団の質的転換」を期し「教法を聞思し実践する」とは、私が念仏申すことに他なりません。何故なら、人は自分の意識、自分の感覚を、自分の考えで改めることができないからであります。それを仏陀は「凡夫」と教えてくださっている。我ら凡夫、「ただのひと」であります。我ら凡夫であるからには、自分の考えで自分を変えることなど、絶対に不可能である。必ず「気づかされる」ということを通さなければ、何一つ、変わらない、改まらないのであります。
一人の意識改革なしに、宗門の改革は成り立たない。大変厳しい道でありますけれども、この一点をお互いに改革論議の基礎・基軸として堅持いたしまして、これからの宗
門を共に形づくっていきたく思います。それこそが「教団の質的転換」という「我らの宿題」に応える一道であると、思料いたします。
【 教団の今 】
「教団の質的転換」を期し「教法を聞思し実践する」にあたっては、教勢調査によって明らかにされた「教団の足もと」と、その背景にある南無阿弥陀仏によって明らかにされる「自身の足もと」。それらを具に把握することが要となります。
昨年実施いたしました第8回「教勢調査」は、調査対象寺院の95.9%から回答をいただき、大変厳しい状況にある能登教区の寺院からも86.4%もの回答をいただきました。改めて厚く御礼を申し上げます。
今回の調査結果における分析について述べさせていただきます。宗門は、人口減少といった国勢の停滞や、移動社会による転居や核家族化、門徒の死去をきっかけに寺院と門徒との関係が途絶える等の影響により、「門徒の減少、教化組織の衰退・解体であり、宗門の基盤の揺らぎが着実に進行しつつある」と、危機感を持って調査専門員が指摘されました。
また、各寺院が様々に門徒や地域の方々との接点を求めて、将来の取り組みを模索している様子も見受けられました。それらは「教えや寺院運営の世代間継承」、「転居門徒との関係性」、「寺院と門徒・地域との関係の希薄化」といった諸課題に対応するものでありました。つまりそこに、危機感を持って向き合う寺院の姿があるのです。
危機感は可能性です。同朋会運動の始動から60有余年。いつの時代も、その時代社会に生きる人々の「今」を大切にしながら、教学を時代社会に生きた教学とする営為を続けてきた歴史が、1ヵ寺1ヵ寺にあります。
その歩みは、教えに足もとを照らされながら、聞法求道する教団であり続けてきた歴史でもあります。社会の課題を我が課題として、あらゆる人々を同朋としていただき、同朋社会を顕現せんとしてきた不断の歩みです。この歩み、すなわち同朋会運動が、私たち一人ひとりに紡がれてきた事実が、誠に以て尊いと言えます。これが近現代における教団の歴史であり、故安冨信哉先生の言葉をお借りすれば、「近代教学を大切にしつつ、現代教学を表現」する歩みであり、「同朋社会の顕現」を使命とする教団が続けなければならない営みであったのです。
これこそが社会から求められている宗教法人としての公益性でもあり、その1ヵ寺を担う使命を、教師になる方々にも学んでいただくべく、施策を進めてまいります。
そして、各寺院が「一人の念仏者の誕生」を願って、創意工夫を施しながら大切に続けられてきた教化事業そのものが、同朋会運動であります。そこに、1ヵ寺の、一人の運動の具体性が、足もとが、「既にしてある」のです。各寺院のその歩みは、必ず未来に、今につながっているのであります。届けられし南無阿弥陀仏あってこその私、南無
阿弥陀仏によって召される僧伽を確かめ合うその場に、「自信教人信の誠を尽くし」、
「人類に捧げる教団」確立への、大きな可能性を有しているのです。
多様性が求められる時代社会にあって、「人々が集う」ことで大切にされてきた「受け継ぐべき本来性」と、変化の中で「変えていく柔軟性」、この両視座を大切にしつつ、本調査結果を、様々な形に変容する宗教行事、その奥に内在している人々の宗教心を確かに受け止め、新たな教化のあり方を模索する根拠と捉えていきたいと考えております。
各教区においても、様々な数値を、向後における教区運営のあり方を見据える根拠として、活用いただきたいと願っております。
3.2025年度の主な取り組み
それでは、これまで縷々述べました内容を立脚地として、2025年度の主な宗務について、3点申し上げます。
【 宗務改革 】
1点目は、宗務改革について。行財政改革の取り組みは、変化の著しい時代社会にあっても、持続可能な宗門の基盤整理を図るべく、4つの柱で進めております。
まず、「同朋会運動の更なる推進」、特に「教化に関する情報発信の充実」として、真宗同朋会の機関紙である『同朋新聞』のリニューアルに着手しております。
真宗教化センターと出版部が中心となり、宗務所の各部門が連携して、新聞を製作していく体制を整えていきます。
ご承知の通り、『同朋新聞』は、真宗同朋会の機関紙であり、発刊以来63年の星霜を経てきた約75万部を発行している宗門最大の情報媒体であります。混迷する時代社会に、今宗門が何を表現しなければならないのか。弛むことなく大切にされてきた新聞の使命を改めて振り返えれば、ひとえに一人ひとりの門徒に本願念仏の教えを届け、「同朋の会」を立ち上げていくことに結実されると考えています。
仏教を聞信し「問い」をいただく生活とはどのようなことなのか。宗祖の明らかにされた念仏の教えを聞き、生涯を送られた先達が感動されたことは何であったのか。この教団がどれほど多くの方々と結びついているのか。教団の社会に対する不変の使命とは何か。宗門全体の姿を幅広い世代の門徒にお伝えできるよう、努めてまいります。
そして、時代社会の要請に応える発信と配布の在り方を模索しつつ、同時に各種媒体ごとの強みを活かした展開をしてまいります。
ご門徒に配りたくなるような『同朋新聞』、その配布拡大については、各教区・各寺院・各位のところでも、具体的な検討をぜひお願いいたします。
関連して、ホームページやSNSについても、仏教の教えをはじめ、東本願寺の価値や魅力がこれまで以上に効果的に伝わり、多くの人に宗門が選ばれることに寄与する情報発信の体制構築を目指して、取り組みを進めております。
いずれにいたしましても、次世代にもこの教団を荷負っていただける意識の醸成、この教団に所属していて良かったという実感、そして、教団が持っている願いの深さを感じ取っていただけるような情報発信をしてまいります。
次に、「財政の健全化と自主財源の確保」として、宗派の適正な財政規模の明確化と、真宗本廟を確実に相続する積立金の確保を期した取り組みや、宗派自主財源の更なる増収に向けた検討について。
特に「大谷祖廟の総合整備」については、一昨年の常会演説において、私は宗憲前文に「宗門の原形」、「はじまりの一滴」があることを述べました。曰く「宗祖聖人の滅後、遺弟あい図って大谷の祖廟を建立して聖人の影像を安置し、ここにあい集うて今現在説法したもう聖人に対面して聞法求道に励んだ。これが本願寺の濫觴であ り、ここに集うた人びとが、やがて聞法者の交わりを生み出していった。これがわが宗門の原形である」と。また、覚如上人の『報恩講私記』においても、諸国から群詣して「廟堂に跪きて涙を拭い、遺骨を拝して腸を断つ」と、真宗教団成立の歴史的事実に触れました。
そのような大切な場所を整備し、亡き方を縁として仏法を相続していく場づくりを進めるため、宗務審議会における基本構想に基づき、条例による委員会を設置して、複数年に亘る総計画を立案し、着実に実行してまいります。
また、同審議会の答申でも触れられている「東本願寺真宗会館」と「沖縄別院」においても、納骨や預骨に関する施設整備が喫緊の課題となっていることから、東京教区や沖縄の関係各位と十分な連携を保ちつつ、新たな法縁づくりに資する取り組みを進めて行きたく念じております。
次に、「大規模災害被災教区の教化・運営を支えるための体制づくり」として、 今宗会を経て「災害時特別教化交付金」を新設することであります。
宗門には、これまでの災害対応によって多くの知見が蓄積されていますが、それらを活かしていくためには見直すべき事柄もあります。その一環として、災害につよい教団づくりを目指し、今常会において、災害による緊急時の教区運営に関して、一日でも早い教化の現場・聞法の場の回復を期した、支援体制の確立に必要な条例を提案するとともに、既に本年から「寺院・教会の施設に係る新たな復興共済制度の検討」に関する宗務審議会を設置し、これまでの大規模災害において蓄積されてきた諸課題に基づき、宗派の共済・保険制度に関する審議を始めていただいております。
次に、「教区及び組の改編・門徒戸数調査との連動」として、教区改編について は、今宗会を経まして、「山陽四国教区」が誕生いたす運びであります。関係各位のご尽力に、深甚の敬意を表するものであります。
【 教化研修や教団の将来像構築に向けた取り組み 】
2点目は、「2026年度以降の教化研修や教団の将来像構築に向けた取り組みの策定」について。
まず、3年一体型の最終年度を迎える「教化研修計画」は、教勢調査の分析結果や行財政改革の進捗等を含め、2026年度以降の取り組みを策定してまいります。
既に、「人の誕生」を期した取り組みとして、「青少幼年教化推進研修」が始まっており、第5期「教化伝道研修」も実施いたします。また、慶讃継続事業についても、事業の現況と見通しを精査しております。
関連して、真宗本廟への上山促進については、その環境面において、おかげさまをもちまして、阿弥陀堂門・鐘楼・手水屋形といった重要文化財の保存修理事業が無事完了いたしました。関係各位に御礼を申し上げます。
この本廟を次世代に相続していくためには、まず以て本廟に参拝いただくことが肝要です。御正忌報恩講の参拝者数で言えば、コロナ前に比して7割近くの復調が見られます。「本廟に直参する」「年に一度は本廟へ」ということが大切に伝統されてきた宗門において、宗祖と出遇い、全国の人と出あう。1人の歩みが宗門の歩みとなる。このことを意識できるのが本廟参拝・本廟奉仕であります。
教勢調査の結果においても、本廟参拝・本廟奉仕に取り組みたいというニーズを見て取ることができましたので、今後とも、1人でも多くの方に本廟に触れていただく機会を創出してまいります。
次に、「別院の将来構想」については、全別院にアンケートを実施し、現地視察等も通して現状把握に努めました。次年度からは、宗務審議会の答申に基づき、条例による委員会を設置して、別院の具体的な将来像を創出していけるよう協議してまいります。専任輪番会や審議会の折にも私から申してまいりましたが、喫緊の改革が必要な別院 を抽出した上で、現場にお任せをするだけではなく、内局も現地に足を運び、共に取り
組んでまいります。
次に、大谷専修学院については、学院の運営体制を整える必要があるため、学院生の募集を中止いたしております。学院への入学及び教師資格取得をご検討いただいていた皆様方には、大変ご迷惑をおかけいたしましたこと、改めて深くお詫び申し上げます。信國淳先生曰く「仏の教育的生命」、それに出遇う大切な場として存在してきた学院 であります。既に今後に向けた検討に着手しており、宗務審議会を設置し、1日でも早
く学院生の募集を再開できるよう、努めてまいります。
【 是旃陀羅問題の課題共有 】
3点目は、「是旃陀羅問題の課題共有」について。これまでの取り組みから、テキスト『御同朋を生きる』を通し、『仏説観無量寿経』をいただき直すことを課題といたしましょう。
しかし、経典というのは、その文字だけが内容ではありません。時代性、地域性、そしてその説かれ方も含めて、「経典の内容」「経典のはたらき」でありますから、正依の聖教である「観経」を、差別的なはたらきを持つような説き方をしてきた僧分の責任は重いと言わざるを得ません。もっと具体的に申しますと、「この私に、観経を法事の現場で読誦する資格があるのか」ということが突きつけられているのだと、強く受け止めております。
そういった歴史や現代という時代性も踏まえながら、大谷派が法事において経典を読誦する意味と、是旃陀羅の課題を踏まえ、具体的な法要はどうあるべきかを課題とする宗務審議会を開きました。
なお、テキストを活用した教区学習会の開催や、教区・組での継続的な学びを推進する人の養成等については、解放運動推進本部と教学研究所において継続して傾注してまいります。
したがって、本審議会は、法事の現場での経典読誦の意味とその読法という、七つの施策における次のステップに向けた歩み出しとして位置付けるものであります。
七つの施策は、既に6年前からお示ししております。それらは、我々の「今」の問題であり、同時に遂行すべき課題であります。待ったなしであります。
以上、主な取り組みを縷々申させていただきましたが、改革にはBESTなどというものはなく、必要なのは時代社会に生きる人々の「今」を大切にしつつ、BETTERを選び取る柔軟な心と体制であります。
今まで通りの現状維持ができない時代において、行財政改革を遂行していくには、先述の通り、一人ひとりの「意識改革」が必要となります。これら幾多に亘る取り組みは、いずれも行財政改革における「意識改革」の根底を支えるものになると思料いたすことであります。
4.おわりに
【 宗祖からいただくスタート 】
本年に入り、教区慶讃法要が各地で厳修されております。私も新門と各地へお参りさせていただいておりますと、多く聞かれる言葉が「ここからがスタート」という声です。人々が一堂に集い確かめられるその光景に、宗祖に触れさせていただく慶讃法要の持
つ大きな意義を実感することであります。
昨年の御正忌報恩講の折、阿弥陀堂での「見聞『教行信証』坂東本」に、1,000名以上の方が参加してくださいました。多くの方はスクリーンに坂東本が映った途端に合掌なさいます。私の前におられた方は「もったいないこっちゃ」と仰いました。きっと加賀の方でしょう。ものをいただいた時に使う言葉です。つまりその方は、坂東本を宗祖からいただいた宝物。「念仏申せ」と伝えてくれる、丁寧な丁寧な「お手紙」だと受け止められたのです。これほど宗祖を身近に感じることはあるでしょうか。
「直筆に触れる」ということは、我々が考える以上に、本当に大きな力を持っております。宗祖の御誕生と立教開宗が自らの学びとなるよう、新刊の『坂東本カラー影印縮刷本』や、先に刊行しております『真宗聖典 第二版』、『宗祖親鸞聖人著作集 一・二』とともに、「教法を聞思し実践する」視座をいただいてまいりたいと思うことであります。
最後に、私は今、宗門は大きな転換期に差し掛かっていると受け止めております。教団の質的転換を期し、教法を聞思し実践する「真宗再興」の道。それを成り立たせるものが「南無阿弥陀仏」の声であります。私は、そう確信する「ひとり」であります。
共に、御名を聞く一道を願うところであります。
以上、今議会に際しての宗務執行方針をお伝えいたしました。ご清聴、深く感謝いたします。有り難うございました。
以 上

2025年 宗会(常会)財務長演説(要旨)
2025年5月29日
宗務総長演説の基本姿勢及び重要宗務の方針に基づき、財務の方針について申し上げます。
まずは、2024年度宗派経常費御依頼の収納状況について申し上げます。御依頼総額50億2,018万円に対して、2025年5月26日現在での収納額は49億974万2,019円、率にして97.8%の収納であります。厳しい経済状況の中、全国の寺院ご門徒の皆様より宗門の活動に深いご理解をいただき、格別の御懇念を賜っておりますこと、厚く御礼申し上げます。
加えて、2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」に対する救援金の勧募につきましては、これまでに2億4,731万8,866円の救援金を全国からお寄せいただきました。被災された方々に思いを馳せ、救援金をお届けくださっておりますことに、あらためて心から御礼申し上げます。
【2024年度補正予算及び第2種共済制度の見直しについて】
次に、2024年度補正予算及び第2種共済制度の見直しについて申し上げます。
2025年3月より能登半島地震に伴う共済金として総額49億4,013万円の給付を開始いたしました。この共済金は、第2種共済特別会計条例に基づき、共済金の予算額を超える分については、復興共済積立金から補填し円滑に給付することができる制度であります。
これまで同朋相互扶助の精神によって91億1,228万円もの金員を積み立てることができたため、給付額の制限を受けることなく、審査結果のとおりに給付することが可能となりました。長年に亘り、ご協力いただいておりますこと茲に深く感謝申し上げます。
一方で、被災による任意加入の減少及び賦課金減免措置による共済賦課金の減収に伴い、現段階で第2種共済特別会計の歳計に不足が生じることが想定されております。この場合は平衡資金から補填することとなりますが、第2種共済制度は、加入者同士による同朋相互扶助の精神で運営している状況に鑑みれば、平衡資金からの補填、又は一般会計で負担する対応は相応しくないと判断し、歳入予算を決算想定額に減額補正し、共済賦課金に限定した内容で一般会計経常部及び第2種共済特別会計の補正予算を編成いたしました。
このことは、会計上の課題と捉え、かつ財政改革の方針に基づいて、第2種共済特別会計の運用は、自収自弁とする会計構造にあらためるよう「第2種共済特別会計条例の一部を改正する条例案」を提案いたしております。
なお、今回の共済金給付によって、復興共済積立金は大きく減少していることから、現在、新たに設置した宗務審議会「寺院・教会の施設に係る新たな復興共済制度の検討に関する委員会」で第2種共済制度の抜本的な見直しを進めております。早速、当委員会から一部答申が提出され、その内容に基づいた臨時措置を講じるために「地震災害に係る共済金給付額の算出に関する臨時措置条例案」を提案いたしております。引き続き当委員会において、新制度の確立に向けて鋭意取り組んでいただきますようお願い申し上げます。
【2025年度予算編成について】
次に、2025年度の予算編成について申し上げます。
昨年常会にて財務長演説で述べた「繰越金収入同額は将来の支出に備える資金として積み立てる」方針は、このたびの予算編成で達成することができ、財政改革に向けた一歩を踏み出せたものと受け止めております。
また、2024年度宗会臨時会の決算審査でいただいたご意見を踏まえ、歳入においては、自主財源の更なる確保を行うため、現行の冥加金改定や新たな取り組みに積極的に着手する等、様々な増収策を講じるとともに、歳出においては、施策の見直しや、執行率の低い科目は実施可能な計画で予算編成いたしました。
【2025年度予算の概要】
次に、2025年度予算の概要について申し上げます。
2025年度一般会計の予算総額は、経常部・臨時部合わせて89億 4,430万円、2024年度予算に比して2億3,302万円増額して編成いたしました。
詳細については、予算概説に示しておりますが、歳入の増額編成で特筆すべきものについてご説明申し上げます。
近年、増加傾向にある懇志金(読経志・納骨志・諸懇志)では7,439万円増額し、土地活用により生じる不動産冥加金では6,339万円増額、東本願寺出版特別会計回付受金では、宗祖親鸞聖人御誕生八百五十年・立教開宗八百年慶讃事業である『真宗聖典第二版』・『真宗児童聖典』の頒布を踏まえ1,500万円増額を行っております。加えて、真宗本廟を訪れる方に満足していただける施策の展開、保存整備事業が進められている渉成園の魅力を生かした企画、海外からの旅行者へのアプローチも視野にオリジナル記念品の充実等、更なる取り組みを予算に反映し増額計上いたしました。
また、帰敬式実践運動は、2025年4月に開始30年目を迎え、これまで「帰敬式執行の手引き」、各種リーフレットや動画配信、教区・組での「帰敬式法座」の実施の他、執行場所や執行者についての特例措置を講じるなどの施策を重ねてまいりました。2025年度は、教区慶讃法要を機縁とした帰敬式の受式奨励はもとより、第8回教勢調査において、多くの住職方から帰敬式執行を新たに取り組みたいと回答いただいていることから、あらゆる機会を通じて積極的に働きかけを行い、帰敬式受式者8,000人を見込んだ予算を計上いたしました。
次に、歳出の増額編成で特筆すべきものについて申し上げます。
まず、宗派会計における人件費(給与・諸手当・社会保険料)は、宗務を担当する職員の確保に資するため、職員募集方途の見直しとともに、初任給をはじめとした若手職員の基本給の増額改定を2025年4月に行ったことから、
2025年度は1ヵ年度通しての予算と、社会保険費の増額等により1億 5,060万円増額して計上いたしました。
また、機関紙『同朋新聞』の2026年1月からのリニューアルによる増頁分 1,984万円を増額して計上いたしました。併せて、同朋会員志金収納額の 10%であった同朋会員志金還付金について、2025年度は還付率を5%とし、2026年度は廃止へと漸減する方針をもって『同朋新聞』の発行経費に集束し、同朋会運動の推進に資する機関紙として、紙面の充実と配布拡大に努めてまいります。なお、無償頒布してきた教化冊子『真宗の生活』は、東本願寺出版からの有償頒布に変更いたします。
次に、臨時部では、2026年度に南米開教区で開催される世界同朋大会の経費を、新たに設定する海外開教推進資金から一般会計に繰り入れる予算を編成いたしました。この海外開教推進資金については、2024年度にアメリカ合衆国在住のご門徒より400万ドルの遺贈を受け、これを更なる海外における開教の推進のための資金として設定するべく「海外開教推進資金に関する特別措置条例案」を提案しております。また、その大会に係る経費は、この資金管理により生じる利息で支弁いたします。なお、本常会にてご可決いただいた後には、海外開教資金の効果的な保管方途を財産管理審議会においてご審議いただきたいと考えております。
また、2025年度は宗費賦課金に関する審議会を招集するための予算を計上いたしております。寺院賦課金と僧侶賦課金で構成される宗費賦課金は、繰越金を除く2025年度一般会計経常部歳入予算額の8.6%を占め、重要な宗派財政基盤となっております。このたび、2016年度に同審議会で確認された事項を踏まえ、宗費賦課金の金額設定と導入時期について審議会に諮問してまいります。
また、宗派の財政は宗門に属する一人ひとりの懇志によって運営されることが大前提ではありますが、真宗本廟を次世代へ確実に継承するためには、これから宗門と縁を結ぼうとされる方々からの収入を今後の重要な財源として位置づ
けることが必要となってまいります。そこで、寺や門徒という枠にとらわれることなく、収骨・納骨を縁として親鸞聖人の教えに出あい続けていただくことを願い、いわゆる潜在門徒と宗派との新たな関係性構築を目指した具体策を検討する宗務審議会を設置いたします。
加えて、それらの方々との関係を着実に継続するために、2025年度から関係者情報管理システムを稼働させ、まずは大谷祖廟を中心に取り組みを進め、向後、真宗本廟収骨や東本願寺出版物購入者、帰敬式や奉仕団等で得られる様々な情報を一元管理し、宗派施策が効果的に実施できるよう努めてまいります。
【災害につよい教団づくり】
次に、災害につよい教団づくりについて申し上げます。
2024年宗会常会で申し上げたとおり災害につよい教団づくりを志向し、これまで、一般会計の災害見舞費の不足を補填するために設けていた「災害見舞準備金」(2025年4月末現在残高1億9,232万円)を「災害対応準備金」として位置付け直し、まずは一般会計から1,000万円を繰入れて積み立てを開始いたします。この準備金は、災害によって教化活動・運営が困難となった教区を支援するために臨時部歳出に「災害時特別教化交付金」として新設しております。
【大谷祖廟総合整備事業】
次に、大谷祖廟総合整備事業について申し上げます。
大谷祖廟並びに東大谷墓地の土地、建物の総合的な整備の計画立案を目指し、 2022年度から総合整備事業の準備業務として、土地、建物の事前調査を行ってまいりました。2023年度からは、宗務審議会「大谷祖廟総合整備に関する委員会」を設置し、調査、審議がなされ、2025年4月14日付で「大谷祖廟並びに東大谷墓地の総合整備事業に関する基本構想」の答申が提出されました。
その答申に基づき、当該事業の完遂に向け、具体的に実働する総合整備総計画を策定するとともに、長期間にわたる総合整備事業の公正かつ円滑な推進を図るために、必要な事項について調査、審議する「大谷祖廟及び東大谷墓地に関する総合整備委員会」の条例を提案しております。
2025年度は、この委員会において、基本設計、工事スケジュール、施工体制、事業に係る経費や財源の整理を行い、2026年宗会常会に総計画総予算を提案できるよう、臨時部歳出に総合整備事業計画立案に係る基本設計費及び当該委員会の開催経費として、あわせて1億401万円を計上しています。
このたびの総合整備事業は、親鸞聖人の御廟所として真宗門徒がこれまで敬仰護持してきた歴史を継承するとともに、納骨を大切なご縁として、次世代に親鸞聖人の教えを伝えていくために必要な事業であり、社会状況や参拝者の利便性を反映し、大谷祖廟において新たな宗派の財源となることを願って取り組んでまいります。
なお、大谷祖廟の納骨志は、社会状況の変化に応答するため、近年は大谷祖廟 納骨の取り扱いの変更を行い、現在は10年前と比較して約30%の増収があ り、2025年度は5億5,500万円の納骨志の収入予算を計上いたしました。
また、東本願寺沖縄別院での納骨施設の整備と運営に係る費用の一部を臨時部に予算計上をしており、今後、財産管理審議にて協議を進めてまいります。
【境内建物と不動産の活用】
次に、境内建物と不動産の活用について申し上げます。
ご承知のとおり、真宗本廟境内の建物の多くが国の重要文化財に指定されております。すでに御影堂・阿弥陀堂・御影堂門・阿弥陀堂門・鐘楼・手水屋形の修理事業は完了いたしましたが、今後はこれまで大規模な修理が行われていない諸殿群を維持していくための修理計画と更なる活用が課題となってまいります。
ついては、この課題に対応すべく、円滑な保存及び活用を図るため、2025年度から3ヵ年度事業として国庫補助を得て重要文化財保存活用計画を真宗本
廟造営物保存管理専門委員会において策定いたします。この保存活用計画では、文化庁や専門家の指導を受け、建物の不具合などの現況を把握し、修理の優先順位や日常管理の注意事項を定めるとともに、公開・活用に向けた課題の整理と活用方針を定めてまいります。なお、この重要文化財保存活用計画の策定事業の総額は5,108万円を想定し、内半分は国庫補助で賄います。2025年度は臨時部の歳入に国庫補助金900万円、同じく臨時部の歳出に1,800万円を計画策定に係る経費として予算計上しております。
並行して、御影堂門楼上公開、渉成園プロジェクトの取り組み、「モダン建築祭」や「京の冬の旅」のほか、旅行会社を通じたツアー、海外旅行者向けの高付加価値事業など、重要文化財建造物や、渉成園等を積極的に公開・活用するさまざまな方途を講じております。2025年度も御影堂門楼上公開、「京の夏の旅」など、今後も継続した実施を図っていくことを計画し、歳入にて真宗本廟諸施設維持管理寄付金1,000万円を新設いたしました。
また、本年5月16日、琵琶湖疎水関連施設の一つとして「本願寺水道水源池」が国の重要文化財に指定される見通しとなりました。両堂再建に際しての先人の先駆的な取り組みが評価されたことは大変喜ばしいことであります。
一方で、宗務所(東本願寺会館)は築約50年、視聴覚ホール及びギャラリーは築約30年が経過し、大規模な修繕や設備更新の時期を迎えています。主な課題として、宗務所では、コンクリートの中性化の進行、トイレをはじめとする給排水設備の老朽化、視聴覚ホールでは、屋上防水の劣化による雨漏り、館内空調設備の老朽化等が挙げられます。これらの課題について、財産管理審議会において継続して協議してきた結果、速やかに着手すべきであるとの結論に至りました。よって、このたび「宗務所及び視聴覚ホールの営繕並びに境内設備の改修等に関する委員会」を設置し、工事内容と進め方、そして将来に向けて必要な課題の洗い出しを進めております。また、境内全域の防災設備の更新に関しても当委員会にて協議してまいります。なお、2025年度は、工事計画の策定と修繕工事に着手するため2億円の予算を計上いたしました。
また、「東本願寺たかくらこども園(旧高倉幼稚園)」及び「高倉会館」は、その将来構想について、宗務審議会「真宗本廟を中心としたグローカルデザインに関する委員会」において審議が重ねられ、2025年2月12日に答申を提出いただきました。「東本願寺たかくらこども園」への移行により入園者数の増加などの成果を得ており、今後は園舎老朽化などの課題に着手される予定です。また、「高倉会館」に関しては、こども園の園児たちの安全を確保するため、耐震診断・補強を行うことが必要であり、2025年度はまず「高倉会館」の耐震調査を実施してまいります。
次に、宗派所有土地の活用について申し上げます。
まず、京都市上京区梶井町土地(旧了徳寺敷地)につきましては、「京都府公立大学法人」と基本協定書を締結し、「ドナルド・マクドナルド・ハウス」事業のために土地の一部を無償貸与する計画を進めてまいりました。
このたび、「京都府公立大学法人」より、施設建設のための寄付金が目標額に達し、具体的な建築計画に着手したとの報告をいただきましたので、いよいよ賃貸借契約の締結に向けた協議を具体化してまいります。また、その余の土地については、「医療法人社団行陵会」と基本協定書を締結し「大原記念病
院」事業のために有償貸与する計画を進めております。2025年4月より宗派に対し同地の固定資産税・都市計画税が課税されましたが、本契約締結までの間の宗派負担が生じないよう「医療法人社団行陵会」と1年間の一時使用賃貸借契約を締結し、すでに地代収入を得ております。
また、渉成園西側に位置する「正面役宅」は、本年1月に解体が完了しました。その跡地については、効果的な活用方針が決定するまでの間、渉成園参観者の利便性を踏まえ、コインパーキングとして暫定活用を開始しております。当該地は、真宗本廟と開園から2年が経過し利用が広がり賑わいをもたらしている「お東さん広場」、そして「渉成園」をつなぐ位置にあり、さらにモダン建築として注目される「重信会館」と隣接することから、これらの立地条件を踏まえた真宗本廟周辺の賑わい創出に資する活用を検討してまいります。
【財政の健全化に向けて】
最後に、2025年度予算編成を経て、あらためて宗派の財務状況について申し上げます。
2025年度は、繰越金の前年度比大幅減の他、能登半島地震被災寺院の賦課金減免などの歳入減と、物価高騰の社会情勢や2024年度の給与増額改定及び最低賃金引上げによる人件費の増額など、大変厳しい状況の中で予算編成を行いました。
しかしながら、2026年度以降を想定しますと、大谷祖廟の総合整備、真宗本廟諸殿群の修理等の資金は更に確保が必要であり、固定費は年々増加することから、より一層厳しい財政状況となることが予想されます。
今後は、歳入において、真宗本廟を中心とした自主財源の確保と既存収入科目 の増収に向け、行財政改革推進本部を中心に新たに宗門を支える人々との関係 構築を目指したプロジェクト及び今後設置される宗務審議会「真宗本廟崇敬護持のための財源の検討に関する委員会」において、特に真宗本廟収骨や大谷祖廟納骨といった仏事をきっかけとした歳入増加策の具現化を目指します。また、歳出においては、事業の集束とスリム化によって、その効果を見出してまいります。具体例として、機関誌『真宗』の宗派ウェブサイトを併用したスリム化、東本願寺出版の頒布で活用している宗派販売ウェブサイト(ECサイト)を通じて、門徒用授与物や記念品等の販路の拡大と利便性の向上等を実現してまいります。
また、予算編成が厳しいことに鑑みると、2026年度からの3ヵ年度一体型の教化研修計画は、実施年度の財政状況により予算計上できない事態を避けるため、これに対応できる仕組みを構築しなければなりません。行財政改革検討委員会報告書で提言いただいた「(仮称)財政調整基金」創出による資金管理の将来展望を参考に、資金の整理と併せ、一般会計の繰越金収入の同額以上を、重点施策の財源及び真宗本廟諸殿群の修理をはじめとする営繕の財源として確保する会計構造を、2026年度からの始動に向けて検討してまいりたいと考えております。
財政難と言われる近年では、歳出の削減を基本として予算編成に取り組んでまいりました。これまで、一つひとつの歳出科目を少しずつ削り、それを積み上げる作業を行うにとどまっておりましたが、毎年続けて行っている作業ゆえ限界値にきていること、さらには削減額を上回る物価高騰の煽りもあることなどの課題に直面しています。
2014年度からの第1期教化研修計画以降、「選択と集中」という実践目標を掲げてまいりましたが、このたび繰越金に頼らずかつ必要な積立金の確保を方針とした予算編成を行うことによって、ようやくその実を得たともいえます。限られた財と人員の中で宗派としてどのようなことを優先的に選択し、そして集中して取り組むべきであるかという視点を持ち、2025年度予算編成に取り組んでまいりました。引き続き、2026年度から始まる3ヵ年度の教化研修計画を視野に、各事業の内容や方法にとどまらず、それらの背景にある理念や趣旨、実態や実情、その効果などを踏まえた抜本的な見直しに踏み込んでまいる所存であります。
予算の収支均衡を保つためには、歳出削減のみならず当然歳入増を講じる必要もあります。現段階で宗派として必ず取り組まなければならない事業等を考え、現在の予算規模を確保することが必須であると受け止めております。もちろん今後の社会状況によって、むしろ予算規模の拡大が避けられないことも予見した上での認識であります。
その中にあって、2025年度予算においては積極的に増額した収入科目があることは先ほど申し上げたとおりであります。これは決して「願い予算」として計上したものではなく、そのための施策を講じることを前提にしたものでありますが、各教区や組・寺院、そしてそれぞれの教化の現場でも展開できるような施策となるよう努めてまいります。
さて、宗派の歳入は、相続講金、同朋会員志金と賦課金でその大半を占めますが、その他にいわゆる自主財源と言われるものとして懇志金、冥加金、礼金等があります。
この自主財源の増収が期待されていることからも、特に現時点においてはまずはそこに注力し、不動産の積極的利活用をはじめ、これまでの既成概念にとらわれない取り組みを進めてまいりたいと考えております。
しかしながら、大谷派教団の財政理念は今日まで「懇志教団」という考え方に基づいてきたことも忘れてはなりません。1885(明治18)年に始まった相続講の制度はまさにその象徴であります。行財政改革検討委員会からの報告書において、相続講に対する今日的な受け止めの課題が指摘されておりますが、相続講設立時に出された趣意書に示されるように、この制度は「全ての門徒一人ひとりが帰依処である真宗本廟を護持し、宗祖の教えを相続するための御懇念をお運びする」ためのものであることを再認識しなければなりません。
寺院、そしてご門徒の厳しい経済状況を考慮して御依頼額の抑制が望まれることは十分理解しております。そのようなことから、宗務改革や行財政改革はそのために取り組んでいると受け止めている方もおられます。しかしながら、あらためて申し上げますと、宗務改革は「同朋社会の実現を目的とする宗門として、将来にわたって持続可能な教学振興と教化推進を基軸とする宗務機構の基盤整備をはかる」ためのものであります。奇しくも今取り組んでおります宗務改革の目的と相続講に託された願いには通底するものがあります。
「本廟護持」を直訳的に解釈するならば「本廟を支える」ということになります。仮に、支える側が本山を対象化して捉える考え方に立てば、当然拠出する金員をはじめ様々な事柄を受け止める意味合いは大きく変わってくるでしょう。かつて「我々は本山を守らなければならないと思っているが、本当は本山から守られているのだ」と教えられたことがあります。このたびの慶讃法要にあたり池田勇諦先生は、「本廟創立の精神に立ち返って、本願念仏の僧伽の伝統に召される慶びとともに、背負う責任を確認するご法要」とお示しくださいました。なぜ
「本廟護持」が必要なのか、そこに答えはあります。
宗教離れや寺離れ、加えて少子高齢化、過疎問題など宗門をとりまく厳しい状況にあって、今まさに各々自らが宗門を担う一人としての自覚に立ち、全宗門人
が危機感を共有し、一丸となって乗り越えなければならない時にあるのではないでしょうか。
相続講は発足して間もない頃から御依頼という形によって奨励されてきまし たが、何を依頼するのかといえば、すでにこれまで本廟を護持し、宗祖の教えを相続してきた先達の尊い願いを受け継いでいくということであります。行財政改革検討委員会の報告書では「意識改革」というキーワードが挙げられておりますが、宗門、真宗本廟、私という関係についての確かめなくして、行財政改革において示される「財政の健全化」は果たすことができないと受け止めております。大切な財政を預かる立場にあることの責務として、相続講精神に裏付けされた懇志教団の歴史に恥じることなく、引き続き同朋会運動の推進のために御懇念をお運びいただけるよう丁寧に努めて参る所存であります。
以 上
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